「孤独」とエグゼクティブ・コーチング

2024年01月13日

 

前回の記事で2024年のエグゼクティブ・コーチングのトレンドについて書きましたが、経済や地政学的不確実性がどのように会社の福利厚生への判断に影響するのかは注目すべき点だと考えます。コスト削減としてエグゼクティブ・コーチングのようなプログラムを縮小する、あるいはそのような時にこそ強固なリーダーシップを発揮してもらえるようリーダー層の育成やサポートにより投資をする、と二極化するかも知れません。

 

今回は後者の可能性に絡めて、「孤独」というテーマでお届けしたいと思います。

 

英語の表現に“Lonely at the Top”という言葉があります。「頂点に立つものは孤独である」とでも訳したら良いでしょうか。組織でいうと、出世して重要なポジションに登り詰めれば詰めるほど、孤独になるということです。

 

以前、ある企業の副社長の方から突然こんな風に聞かれたことがありました。

 

「うちの社員は私のことどう思ってるかしら?」

 

この一言にとてつもない孤独感を感じたのを今でもはっきりと覚えています。その方は今時の日本語で言うと「バリキャリ」でしょうか。いわゆるエグゼクティブという堂々たる雰囲気で、自社の社員とは言え周りの人間が自分のことをどう思っているかを気にする方にはとても見えませんでした。

 

しかし、上記の一言で、実は周りの評価を気にしているどころか、自分ではそれを直接社員に聞くことが出来ず、不安や恐れを内に秘めていることが伝わってきました。

 

その時に、先ほど書いた“Lonely at the Top”という言葉がじんと心に響いてきました。

 

また、ある時は別の企業のCEOの方が涙を堪えながら自社の社員のことについて話してくれたことがあります。普段はかなりクールな感じで、感情を表に出さない方でしたので、その様子に内心非常に驚いていました。その方は以前、「自分は家族に仕事のことも何でも話せる。自分は孤独な経営者ではない。」と明るくおっしゃっていました。しかし、その社員の件についてはどうやら周りの誰にも話せず、かなり苦しい思いをされていたようでした。

 

コーチをしていると、このように思わぬ本音の吐露というのによく出会します。社外の人間だからこそ言いやすい、というのがあるようです。

 

コーチとしての経験から言うと、暗に企業内の機密事項を周りにペラペラと話せないというのもありますが、リーダーや経営者の方というのは複雑な課題を色々とお持ちで、誰かに相談したとて共感されない、あるいは自分で課題解決できないと思われたくないなどのプライド等色々と相まって、一人で抱え込んでしまう方が多い印象です。

 

さて、先日CBC Newsの動画Why are so many people lonely?を観ました。この動画では、世界の約1/4の人が周りに人がいる時でも孤独を感じており、そのような孤独は喫煙や肥満に匹敵するほど健康に害を及ぼし、痴呆症や最悪の場合早すぎる死を招くとしています。動画の中では、この傾向は何十年も前からあるとしていますが、誕生日のお祝いの電話がやがてメールに代わり、ついにはSNSで”HBD! (Happy Birthdayの略)”と書くだけになった、という動画内の例から読み取るに、近年のインターネットやソーシャルメディアの台頭は人の孤独と深く関係がありそうです。

 

このように世界中で孤独が蔓延しており、多くの人々が企業での役割や役割、社会的立場に関わらず孤独なのです。その上、元々孤独を感じやすいとされるトップに立つ方々は、もしかすると一昔前に比べてより孤独かも知れません。

 

健康被害はおろか早過ぎる死までも招き得る孤独を、企業がどう見るか ー 幹部社員の方々に健康で長く活躍していただくための投資として、エグゼクティブ・コーチングの検討を導入されても良いかも知れません。